ISSUE NO.1 飛騨家具と暮らす 飛騨
10年保証に裏打ちされた技

序章

人と共に
時を重ねる家具

 たとえば、お気に入りの器がひとつあるだけで毎日のお茶の時間が待ち遠しくなるように。お気に入りの椅子がひとつあるだけで日々の暮らしがワクワク楽しいものになるはず。意味もなくただ座ってみたり。すりすり撫でてみたり。座り心地やデザイン、材質、作り手の想いなど、選ぶ基準は人それぞれですが、暮らしの風景を想い描きながら探すのも家具選びの楽しみのひとつです。
 そしていま、日本人が本来大事にしてきた、いいものを長く使うという文化が改めて見直されてきています。それは、時には100年近くも大切に守り育て受け継いできた限りある資源を活かし、誇りを持ってものづくりに励む職人の技と想いがあってこそ。長持ちする丈夫な家具をつくる人がいて、それを大切に使い次世代へとつなぐ人がいる。
 そんな、人と共に時を重ねる家具づくりを今に伝える「飛騨の家具」の里を訪ねました。

第1章

飛騨の家具の歴史と魅力

 訪れたのは「飛騨の家具」が生まれ育った岐阜県飛騨高山市。清流沿いをいくつもの森や山を越えたどり着く、雪に覆われた北アルプスの山々が美しい町でした。土地の92.8%を森林が占めるという飛騨地域。何世紀にもわたり育まれてきた文化は常に森と共にありました。

 いまからおよそ1300年前、飛騨の優れた匠の技を中央政府が都の造営に活用し、その替わりに税を免じる制度をつくります。年に100人、多い時には200人あまりが都に派遣され、以後平安末期までの500年間に延べ4万人とも5万人とも言われる人たちが平城京・平安京の造都で高い技術を発揮したといいます。
「真面目で並はずれた腕をもった彼らの技は絶賛され、いつしか〝飛騨の匠〟と称賛されるようになり、薬師寺や法隆寺夢殿、東大寺など多くの神社仏閣の建立に関わりました。この〝飛騨工制度〟は全国唯一の制度で、飛騨の豊かな自然に育まれた〝木を生かす〟技術や感性と、実直な気質は古代から現代まで受け継がれ飛騨の文化の基礎になっています」と協同組合飛騨木工連合会・専務理事の袈裟丸浩康さんは話します。
 たしかに飛騨の町を歩くと、あちらこちらに匠たちの技を今も見ることができます。町の人たちも大事に大事に守り続けてきた、そんな誇らしさを感じます。

 1920年のある日、2人の旅人がやって来たのが「飛騨の家具」の始まりと言われています。大阪で西洋の曲木技術を学んだ彼らの話に心を動かされた町の有志たちが出資し合い、西洋家具メーカー・中央木工株式会社(現在の飛騨産業株式会社)を創業。曲げ木の椅子づくりに取り組み始めました。洋式の家具はまだ一般的ではなかった当時、それは先進的な挑戦だったと思います。こうして飛騨高山で始まった椅子づくりは、1世紀にわたる日本の椅子史そのものとなるのです。
「決意の裏にはこの地に流れる〝飛騨の匠〟の技術とブナ材に代表される豊富な森林資源があったからでした。また新しいことに挑戦しようという飛騨人の心意気があったことはまちがいありません」
 そんな古代の匠のDNAを受け継いだ現代の匠が妥協することなく、丹精込めて作り出しているのが「飛騨の家具」なのです。

 伝統ある高い技術力と飛騨地域の豊かな自然に西洋の曲げ木の技術が融合し「飛騨の家具」は誕生しました。曲げ木独特の高い技術に、厳選された天然木の風合いや温もり、そして長く使い続けられる、暮らしに根ざした飽きのこないデザイン。「飛騨の家具」が1世紀も愛され続けてきた理由が分かるような気がします。

「岐阜県ミュージアムひだ」で飛騨家具の歴史を知る
「岐阜県ミュージアムひだ」で飛騨家具の歴史を知る

「飛騨の家具」の品質は、飛騨の家具メーカーで組織する協同組合飛騨木工連合会によって商標登録され、飛騨地方に由来する製法により飛騨高山市で生産された家具として定義され、エコロジー基準・産地基準・保証基準・デザイン基準・品質基準・木材基準などの厳しい認定基準をクリアしたメーカーのみが名乗ることを許されています。
「私たちが進む道を示しているのが〝飛騨デザイン憲章〟です。それは〝自然との共生〟〝人がつくる〟〝心の豊かさ〟〝伝統を生かす〟〝永続性〟という5条から成っています。飛騨デザインは、自然との共生を考慮し、将来も持続可能なモノづくりのあり方を追求する。人の手の技を尊重し、つくり手が喜びと誇りを感じられるモノを目指す。世界の人々のこころの豊かさと、精神のやすらぎを与えるモノをつくる。日本の伝統文化を尊重しながら、現代と未来の暮らしの中で、輝いて生き続けるモノをつくる。そして、長く使い続けられ、長くつくり続けられるデザインを目指しています」
 安心・安全な「飛騨の家具」を100年先まで守り続けたい。さらにその先まで使う人の想いに応えていきたい、と袈裟丸さんは話していました。
「飛騨の家具」にふれると感じる心地よさは、家具づくりすべてに関わる人々のそんな想いがあるからかもしれません。

飛驒産業株式会社

飛驒産業株式会社

匠の心と技をもって
飛騨を木工の聖地に

 1920年、現在の飛驒産業(株)である中央木工(株)の創業に続き、1943年には柏木工(株)、(株)イバタインテリアが、1946年には日進木工(株)、1960年には(株)シラカワが創業するなど、飛騨は椅子を中心とした家具の産地として、その名を日本のみならず世界へと広げていきました。
 
 2011年に市街地から移転したという飛驒産業の新工場は、森の木々と畑に囲まれた豊かな地にありました。
 飛驒産業の歴史は飛驒の家具の歴史でもあります。飛鳥時代から続く匠文化を背景に、1920年、地域の発展を願う有志が「無用の長物」とされていたブナの木を活かし、西洋の椅子を手本に曲木椅子をつくり始めました。以来100年あまり、日本の曲木家具の先駆者として数々のロングセラーを世に送り出し続けています。

森に囲まれた自然豊かな地で作られている飛驒産業の家具
森に囲まれた自然豊かな地で作られている飛驒産業の家具

HIDAの原点〝曲木〟

 木の温もりが感じられるなめらかな曲線は、曲木の技術によって実現すると、品質保証室室長の白田雅人さんは語ります。
「曲木は木材を釡に入れ蒸煮して柔らかくし、曲型でプレスし、帯金に固定したまま乾燥させます。木目を切らずに形をつくる曲木の技術は、強度があり、しなやかで折れにくい丈夫な椅子づくりには欠かせない飛騨の伝統技術です。曲げることで優雅で美しい曲線を
作り出すのはもとより、削り出す加工に比べ、木材を無駄なく利用できる、用と美を兼ね備えた技法といえます」。

削りだしではなく「曲げること」でさらに強度が生まれる
削りだしではなく「曲げること」でさらに強度が生まれる

1枚の板から曲げることで
優雅さと強度につながる

 堅い木が理想のフォルムに曲げられていく様子は、まる魔法のよう。見た目の美しさだけではなく、一枚の板から曲げることで木理が通っているため強度が生まれることを初めて知りました。厚く堅い木をいかに割らずに曲げるか。ここにも匠の長年の研究と工夫が生きています。大きな機械が整然と並ぶ工場ですが、木材の選定から木取り、削り出し、磨きや組み立て、塗装まで全ての工程が職人の目や手で一つひとつ行われているのも驚きでした。

厚く堅い木を割らずに曲げるかに匠の知恵と技術が活きる
厚く堅い木を割らずに曲げるかに匠の知恵と技術が活きる
全ての工程が職人の目や手で、一つひとつ丁寧に行われる
全ての工程が職人の目や手で、一つひとつ丁寧に行われる

椅子の表情〝座繰り〟の極意

 座繰りとは、椅子の座板をお尻の形にフィットさせるために削って凹ませる作業のことです。削ることによってお尻のあたりが柔らかくなり、座り心地が格段によくなります。長い時間座っても疲れにくくなります。特にその座面の磨きが大事な工程で、ここで椅子の座り心地が決まります。座繰りの極意は、磨いては撫で、磨いては撫でて、その磨き具合を確認する職人の手。座り心地だけではなく、繰き具合によって木目の表情が決まるため、人の感性に頼る大事な工程といいます。「座繰りがされた板座は座り心地がよく、私はクッションの椅子よりもこちらが好きですね」と白田さんも笑顔で話します。

 毎日座る椅子だから、少しでもおしりにフィットしていることが大切。ズレていると落ち着きません。クッションだとメンテナンスも必要ですが、木はそのまま使い続けられて座り心地も変わらず、経年変化で見た目も味わい深くなります。

座繰りの極意は、何度も撫で磨き具合を確認する職人の手
座繰りの極意は、何度も撫で磨き具合を確認する職人の手

だんだん増やしていく椅子

 飛驒産業を語る上で欠かせないのが、1969年から50年以上つくり続けている「穂高」シリーズ。日本人の体型に合わせた優雅なデザインと堅牢なつくりで愛され続けているロングセラー商品です。その販売台数は累計62万脚を超えているというから驚き。

「当時のライフスタイル、応接間など洋間への憧れを形にしたシリーズです。一脚ずつ増やせますので家族構成やスタイルに合わせて気軽にアレンジすることができます。もうひとつはつくりの良さ。アームが特徴的で手を添えると温かみがあり、使い込むほどに艶が出て魅力的な色合いになります。昔ながらの花柄以外にも、さまざまなアーティストとコラボレーションしたデザインが豊富にありますので、クッションを変ることで全く違うデザインにすることができるのも魅力です」と、長く愛されてきた理由を社長の岡田明子さんは話します。

 クッションを変えるだけで表情はぜんぜん違ったものになります。「穂高」50周年を記念して発売された鹿児島睦さんデザインの「ナベダイラ」や、柚木沙弥郎さんデザインの「クツロギ」など、定期的に新しいデザインの柄が発売されています。座ってみて感じるのは、絶妙な椅子の高さ。きちんと足が床に着く心地よさが新鮮でした。クッションや座枠を交換しながら、2世代、3世代と世代を超えて使うお客さんも多いそうです。

一脚ずつ増やせるから気軽にアレンジすることができる
一脚ずつ増やせるから気軽にアレンジすることができる
日進木工株式会社

日進木工株式会社

細くても強く
家に馴染んでいく家具を

「毎日使うものだから。長年使うものだから。職人はできるかぎり〝軽く、強く〟を意識しています。細くても強く、造形的にも美しい家具は、何世代、何百年と受け継いできた伝統の先に生まれてくるものと私たちは考えています」。
 木の香りに満ちた工場では、職人たちが黙々と木を削る音が響いています。案内して頂いた谷口宝工場長がまず誇らしげに話してくれたことは、材料となる木材についてでした。
「日進木工では状態の良い広葉樹だけを見極めて、丸太の状態で仕入れています。仕入れた木材は1年ほど天然乾燥させ、さらに乾燥庫の中で約1か月間人工乾燥した上で製品の部材に応じた寸法にカットし、適材適所に仕分けしていきます。軽く細くしなやかな家具づくりを目指すためには、いい木材を選ぶことから始まります」。

丸太を使用する事で限りある資源を無駄なく使用している
丸太を使用する事で限りある資源を無駄なく使用している

 なぜ丸太なのか。仕入れた丸太は、自社製品に合わせた木目や厚みなどを考慮し、飛騨で製材しています。それは良材を得るため。 計画的に適材適所に木材を使用し、断続的に無駄なく製品を安定して生産し続けるためといいます。真っ直ぐでもなく、色が均一なわけでもない。いろいろな木目や色の濃淡がある木の個性を見極め、どの家具のどの部分に使うかを考えることで、限りある資源である木を無駄なく使いきるための取り組みでした。

乗鞍岳が遠くに見える工場で日進の家具がつくられている

軽さを生む
〝フィンガージョイント〟

 日進木工の家具の魅力は、そのモダンなデザインの美しさと、細く、軽く、丈夫であること。相反するそのふたつを可能にしているのも曲げ木や角ホゾ、フィンガージョイントといった匠の技です。
「フィンガージョイントとは木材同士の接合方法のひとつで、両手を合わせて指を組んだ形に似ていることからそう呼ばれています。木材の接合面をジグザグに加工することで接着面が多くなり、安定した強度を保つことができる。元は一本の木材ですので木目も揃い、ギザギザの模様も美しく仕上がります」。

 デザイン的に角度を付けたい、違う素材同士を繋げたい。切り出せば木材に無駄が生まれ、ただ繋げるだけでは強度の心配もでる。
細く、軽く、丈夫であることの工夫がすごい。
 角ホゾも接合技術の一種です。椅子は特にうしろ脚と座面の接合部に負担がかかるので、細身の椅子はこの角ホゾ構造でなければ十分な強度が保てません。角ホゾより角穴の寸法を小さくこしらえることが日進木工独自のノウハウ。3.4kgの軽さでありながら強く頑丈な椅子がつくれるのはこうした伝統技術を受け継いでいるから。こんなところにも匠の技が生きていることに驚きます。

片手で持ち上げられる軽さの椅子でお掃除も楽に行える

日本人の生活になじむ
シンプル・モダンな家具、
北欧モダンスタイルな家具

角ホゾ構造により細くても丈夫な軽さが保たれている
角ホゾ構造により細くても丈夫な軽さが保たれている

シンプルモダンな家具

 インテリアの主役は家具ではなく人。家具が自己主張する空間ではなく、人が心地よく過ごせる空間を作りたい。日進木工の家具を見ると、まさにそんな想いが伝わってきます。
伝統の技術を生かしながらも、現代の暮らしにマッチした家具をつくりたい。日本人の生活になじむシンプル・モダンな家具、北欧モダンスタイルな家具。それが創業以来一貫して掲げてきたコンセプトです。例えばダイニングチェアは部屋の中心にあり、朝、昼、晩と動かすものなので、軽くて丈夫なことに加え、どこから見ても無駄のない美しさを備えています。シンプルでモダンであること。それは日本人の美意識と生活習慣に一番馴染むはず。一時の興味ではなく、一生の暮らしを想像し、末永く使うことを想像しながら選んで欲しい。そんな想いがあるのかもしれません。

「昭和38年頃、前会長(北村 繁氏)が北欧を視察したときに北欧の家具にふれ、その美しさに心惹かれたのが始まりです。工芸的な要素があり、手仕事を残しつつ丁寧に仕上げる。特に椅子などは手でさわるところが多いので、そこが安心感であったり、五感に伝わる心地よさがあります。椅子は家具の中でも一番身近なアイテム。暮らしの中で一番長い時間をそこで過ごしています。日進木工の椅子は軽いという特徴がありますが、それはやはり毎日動かして使うものなので、軽くて丈夫というコンセプトでつくり続けているから。デザインはシンプルであること。控えめで表に出ない、モダンなデザインを心がけています。あくまでも人が主役で椅子は道具ではありますが、でも美しさと機能は必要だと考えています」。
 開発部部長の矢島浩さんは、長く使ってもらえるような飽きないデザイン、細くても丈夫な軽さ、掛け心地、そんなことを心がけながらつくっていると話します。
「環境にやさしいこともこれからのテーマになると思います。リサイクルなど長く使ってもらえるような工夫もしなければいけません。長く大切に使って子や孫に受け継いでいく、それがだんだん家に馴染んでいく、そんな存在の家具になってほしい」。

長く大切に使って
子や孫に受け継いでいく

 矢島さんが15年間自宅で愛用しているというホワイトウッドシリーズ。無垢のウォールナット材をナラ材でサンドイッチした、クラフト要素を取り入れた椅子です。1992 年の発売当時、二種類の樹種を組み合わせる発想はとても斬新でした。
木の実のような肘木のデザインと3.4kgという子どもでも持てるほどの軽さ、簡単に取り外しができるカバーリング機能が魅力といいます。
「肘木がテーブルにかけられるのでうちの妻もよくかけて掃除しています。長年使っていくと経年変化で色も渋くなってくる。そんなおもしろさもあります」。
 思わず触れたくなる木の質感と柔らかな表情。使い込むほどに味が出る、育てていく、一緒に成長する椅子。そんなすてきな椅子でした。

3.4kgの軽い椅子は、子どもでも楽に持つことができる
株式会社シラカワ

株式会社シラカワ

100年経っても
飽きのこない
デザインと丈夫さ

 1960年に(株)白川製材所として創業し、1971年に家具製造業へと業種転換したシラカワは、以来、〝100年モダン〟をコンセプトに何年、何十年と愛され続ける家具をつくり続けてきました。

「シラカワのものづくりの哲学は〝100年モダン〟です。独自性の高い100年経っても飽きのこないデザイン、100年でも使える丈夫さ、それらを100年モダンと名づけました。修理しながらでも長い間使い続ける、愛情の持てる家具をつくりりたいという願いです。サスティナブルなものづくりです」と常務取締役の野畑知司さんは話します。

つながる
〝100年モダン〟の家具。

単に欧州の模倣的なモダンデザインではなく、千数百年に及ぶ日本の歴史文化のなかで育まれてきた「和風」という優れた文化を踏まえた独自のデザイン。複雑な曲面曲線美や厚みのある木材を曲げるシラカワ独自の技術が、その重厚感と存在感あふれる家具づくりを可能にしているのは確かです。
 暮らしの道具としての本質を見極める高い見識と、現代の匠として誇りのもてる技術があってこそ生まれる家具。和室でも洋室でもすんなり馴染む、そんな魅力を秘めています。だからこそいろいろな暮らしのスタイルに合わせることができる、親から子へとつなぐことができるのではないでしょうか。

シラカワの魅力は、日本の美と日本のモダニズムの融合
シラカワの魅力は、日本の美と日本のモダニズムの融合

〝普段の椅子〟の車椅子

 シラカワが想いを込め取り組んでいるのが車椅子です。使っているシラカワのダイニングチェを車椅子仕様にすることができます。スチール製の車椅子にはないあたたかみがあり、家族と同じダイニングチェアを使っているという心の絆も感じられるはず。
「同じように生活できるように、家族みんなが使っている椅子をタイヤに乗せる感じで開発し、まったく同じ座り心地を楽しめるようにしています。高齢になった方が、今まで使っていた椅子を加工して車椅子として使えるようになれば、食卓でも区別なく楽しめるのではとの想いがありました。室内用ですのであまり大きくならないように。タイヤも小さく、安定感が出るように、試行錯誤を繰り返し、商品化するのに5年近くかかりました」。
 この木製の車椅子は評判もよく、インテリアショップやホテル、旅館などでも活用されているそうです。いろんなことに挑戦し続けてきたシラカワの、ものづくりへの想いが感じられる。そんな取り組みでした。

そっと木の温かみを感じられる〝普段の椅子〟の車椅子
そっと木の温かみを感じられる〝普段の椅子〟の車椅子

 また、同社が4年ほど前から力を入れているのがオフィス家具だと、野畑さんは話します。
「温もりのある木製のオフィス家具が少しずつ需要が高まり、事務機メーカーでは作れないので、それなら私たちがということで挑戦し始めました。基本的にはこれまでの椅子づくりやテーブルづくりの応用ですが、オフィス用として自由にレイアウトが変えられるようなデザインを心がけています。従来のオフィス家具と違い木製なので、木の温もりある職場になると思います。〝クリエイティブラウンジ〟と名付け、働く場所だけどくつろぎもある、そんな想いで開発を続けています」。
 木の家具が並ぶオフィスは、その見た目のあたたかさと、居心地のよさが魅力的でした。自然と人が集まりコミュニケーションの輪も広がる、創造性も刺激されそうな、そんな空間でした。

座面より上の部分を家族が使用している椅子と合わせてオーダーできる

40年以上も
つくり続けている椅子

 試作室で働く谷口楓さんは、昔からものづくりが好きで、生活に使うものを自分でつくりたかったからこの仕事に就いたといいます。

「木は自然素材なので節や割れ、虫食いなどいろいろあります。それぞれの木の表情を生かし、みんな無駄なく使うのは大変ですが、うまく生かしてきれいな作品にできあがるとうれしい。何十年、何百年と長い年月をかけて育ってきた木なので、長く使ってほしいと思います。普段お客さんの声を直接聞くことはありませんが、修理に出され、大切に使い込まれて帰ってきた椅子を見ると、直してでも使いたいというお客さんの想いがとてもうれしいです」。
 修理工房には何年も使い込まれた、中には30年以上も愛用した椅子が並び、修理の順番を待っていました。「この椅子は2回目の修理です。こうやって長く使ってくれると職人としてとてもうれしい」と笑顔がこぼれます。

職人の手によって細部まで一つひとつ手作業で修理される

森を守り継ぐために

 次世代につなぐ家具として、今後は国産の木材を使った家具づくりにも力を入れていきたいといいます。
「大きく育った森の木は、太陽の光が届かなくなり新しい木が育たなくなるので伐採しないといけない、放置しておくと山がダメになります。北米産材など、まだまだ寒冷地の木目の詰まった木材を使用する事が多いですが、国産材の活用も少しずつ手掛け始めています。山を守るためにも木を育てることが大切。
そして、全国に通じる家具産地、飛騨高山のブランドを守り育てる。1300年前から続く飛騨の匠の技術はどんなに最新の機械を導入しても、匠の手、職人の目が無ければ最新の機械も使いこなせません。そして、10年保証の飛騨の家具を安心して長く使って頂きたい」と野畑さんは話していました。

森を守り継ぐため、国産材の活用にも取り組み始めている